なぜ今空き家問題なのか ~協議会創設者へのインタビュー~

「うちは空き家を持っていないから、空き家問題は関係ない」

空き家問題って、自分には関係のない遠くにある問題だ、と思っている人は多いのではないでしょうか。

実際、僕(片山)も、この仕事につくまでは対岸の火事でした。

しかし少子高齢化が進む現代日本において、空き家問題は日本人全員の問題になりつつあります。

そこで、「なぜ今空き家問題なのか」について、協議会創設者である淀川洋子のインタビューを紹介したいと思います。

「空き家問題は自分事」として、そのきっかけとなると幸いです。

 

「空き家のことをもっと真剣に考えて」「空き家から目を背けないで」――その願いを胸に日々活動している私たち太宰府市空き家予防推進協議会ですが、それもむなしく、家財道具ごと朽ち果てたり、草ぼうぼうの「幽霊屋敷」になったりする空き家が後を絶ちません。しかしそれは決して逃れられない宿命などではありません。空き家問題は、正しく理解して正しく努力すれば解決できる可能性があります。その「極意」を当協議会の創設者、淀川洋子が語ります。 (聞き手・内田遼)

 

目次

協議会発足の経緯

空き家予防推進協議会は2018年に発足したばかりの組織ですが、もともと淀川代表は、住まいの問題にはどのような取り組みをしてきたのですか。

30年以上にわたって地元・太宰府市の建設会社に勤め、主に家の新築に携わってきました。

それと並行して15年ほど前から「家事をスムーズに進めるにはどうしたらいいか」という問題意識が出てきました。

そして家庭内の整理整頓を柱として家事をスムーズに進め、家庭内の困りごとを少なくする方法をアドバイスする「家事セラピスト資格」(※注1)を取り、地域の方々のご家庭の相談に応じるようになりました。

ただそのような相談を受けるなかで、家庭の環境を良くするには、やはり家事だけでなく家(住居)そのものの改善も欠かせないと考えるようになり、2012年からリフォーム会社の経営を始め、家のリフォームにも取り組むようになりました。

(※注1)一般社団法人「辰巳渚の家事塾」(東京)の認定資格で、取得には同法人の講座を受けて試験に合格する必要がある。

それがなぜ、空き家対策へと発展したのですか。

「家が荒れていくと人が不幸になる」と考えているからです。

かつて、私が勤めていた建設会社に依頼してマイホームを建てられた、ある男性にお会いしたことがあります。

その男性はお仕事をしながら立派にご家族を養われた方ですが、私が訪ねたときはすでにご高齢で、奥様は養護施設に入られ、お子さんたちは遠方にいてめったに帰ってこない。

掃除も行き届かずに荒れているその家にたった一人で暮らしておられた。

その姿がたまらなく悲しく、胸を刺したのです。もちろんご家族の問題ではありますが、人を幸せにするための基盤であるはずの家のなかで、不幸になる人がいる。

家がまるで「不幸の象徴」のようになっている。そんな家のありようを変えたい。その方法の一つが、荒れていく家を生まないこと、つまり空き家対策だと思ったのです。

空き家問題とは 増える空き家、増える新築

空き家問題の本質とはズバリ何ですか。そしてなぜ深刻にとらえないといけないのですか。

それは空き家問題が「相続問題」であり、いつでも誰でも当事者になりうる問題だからです。

生まれ育った実家を出て、ご両親と離れて暮らしている社会人の方は多いと思いますが、例えばそのご両親が入院なさったり施設に入られたりしたらどうなるでしょう。そして亡くなられたらどうなるでしょう。

それがまさに「空き家」になるのです。何も田舎の古民家のことを言っているのではありません。

都会の住宅地や分譲マンションでも「空き家」は発生するのです。「いま私は空き家なんか持っていないよ」とおっしゃる方は多いですが、いま持っているかどうかは基本的に関係ないのです。

空き家は、全国的に増加の一途をたどっていますね。

いま空き家の総数は全国で800万軒を軽く超えていますが(※注2)、特に今はいわゆる団塊の世代(終戦直後の時代に生まれた世代)が75歳くらいに差し掛かっています。

そうした方々が若いころに建てた家がさらに「空き家」として出てくるはずで、これから数年間は、全国的にさらに増えていくことを覚悟しなければならないと思います。

(※注2)総務省の「平成 30 年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計」によると、国内の空き家総数は、1988年に394万戸、1998年に576万戸、2008年に757万戸、2018年に846万戸となっており、過去30年で2倍以上に膨れ上がった。

 

空き家が増えるのは、つまり家を処分できていないことの証ですが、なぜ処分が進まないのですか。

私は空き家の所有者の方々とよくお話ししますが、空き家を手放さない理由として目立つのが「特に困っていないから」。

そして「将来使うかもしれないから」です。国の空き家調査でもこれと似たような傾向が出ています。

「親の家だし、思い入れもあるからなあ」

「月に1回帰って風通しをすればいいか」

と考え、処分に踏み切らない方が本当に多い。

親子関係がよいご家庭ほどこの傾向が強いように思います。

 

明確な理由もなく「ズルズルと先延ばしにしている」ケースが多いと。

そうです。しかし空き家というのは、それ自体には不動産価値はほとんどつかず、買い手や借り手がついて初めて価値が出るものです。

買い手や借り手がいなければ取り壊すしかありません。

しかし古くなればなるほど、環境問題に配慮せねばならないので、取り壊しの費用が高くなります。

そうこうしているうちに費用だけが膨らみ、いざ家を処分したら、実入りどころか、むしろ手出しが必要になったというケースも多くなっています。

「プラスの財産」だった家が、いつの間にか「マイナスの財産」になってしまう。だから「特に困っていないから」「将来使うかもしれないから」という漠然とした考えは要注意です。

空き家と片付け

空き家の処分は、遅れれば遅れるほど不利になるのですね。

それともう一つ、忘れてはならないことがあります。

それは空き家の内部にはたいてい、親御さんの持ち物や家財道具がたくさん残されているということです。

一人暮らしの賃貸アパートならともかく、長年人が住んでいた家には、おそらく一般の方が想像する以上にたくさんの量の家財道具が残っているものです。

つまり空き家の処分は、家財道具の処分と常にセットで考えねばならないのです。

 

確かに、自分の実家の家財道具がどれくらいあるか、ピンとくる人は少ないでしょうね。

私自身、20年ほど前に父が亡くなって実家の家財を処分しましたが、軽トラック5台分もの量になりました。

もっと多いご家庭もあるでしょう。残されたものをろくに見ずに一律に捨ててしまうのはためらわれますが、かといって息子さんや娘さんが一つ一つ吟味するのもおそらく無理でしょう。

もちろん決心して本気で片づけようとされるご家庭もありますが、あまりの多さにノイローゼ状態になってしまった60歳代の女性を私は知っています。決して簡単なことではありません。

 

かといって、子どもさんたちが「すぐに家財を片付けよう」という気にはなかなかなれないのでは。

だから「月に1回風通しをすればいいや」と言って、本当に風通しだけ続けている人が多いのです。しかし家財には手をつけないまま5年、10年といたずらに時間だけが過ぎ、静かに老朽化が進んでいる空き家がたくさんあります。もちろんそれらはやがて「マイナスの財産」になっていきます。

 

世代別 やるべきこと

では具体的にどう行動すればいいのですか。

具体的な答えを一律にあてはめることはできませんが、一つだけ言えるのは、「親」と「子ども」がとにかく早いうちから家のことを話し合うこと。

これに尽きます。空き家問題は、その面倒くささからつい先延ばししがちですが、空き家の老朽化は待ってくれませんし、高齢になった「親」だっていつ何があるかわかりません。

身体の自由が利かなくなったり亡くなったりした後では、家や家財の処分はもっと大変になります。

そしてそのしわ寄せは結局「子ども」に来ます。だからこそ家をどうするか、売るのか貸すのか、残った家財はどうするか――60~70歳代の「親」と30~40歳代の「子ども」が、早いうちから話しておくことが欠かせないのです。もちろん、「親」と「子ども」の両方がともにアプローチし合うことが必要です。

 

30~40歳代の「子ども」世代にとって重要なことは何でしょうか。

30~40歳代の「子ども」の世代は、まず空き家問題の重要性を「知る」ことが大事です。この世代は日々の仕事が忙しいはずですし、結婚、出産、子育てなど自分の家庭だけで手一杯という方が多い。

なかなか遠方の実家のことまで気に掛ける余裕はないと思います。その一方でマイホームにあこがれる人たちは多く、特に30歳くらいから真剣に考えだすと思います。

それは大いに結構ですが、願望だけが先走ってしまっては、わざわざ数千万円のローンを組んで数十年後に重い荷物(自分の子どもが巣立ったあとの空き家)を背負ってしまうことにもなりかねない。

本当にマイホームを建ててしまっていいのかをよく考えること。

それを考えれば、必然的に自分の実家はいったいどうなるのか、親はどうしたいのか、家財はどうするのか、そのために何をしなければならないのかを知ろうとすることになります。

では60~70歳代の「親」世代にとって重要なことは何でしょうか。

60~70歳代の「親」の世代は、「ご自分から子どもさんに話す」というアプローチを取ることが必要です。

息子さんや娘さんはたいてい「財産をあてにしていると思われたくない」「親の死などを前提にして話をしたくない」と考えていて、親を大事に思う子どもほどその傾向は強いものです。若い人が意欲を持つだけではうまくいかないのです。

それでもある60歳代の娘さんは意を決し、80歳代のお母様に、家の名義を自分に書き換える相談を切り出したそうですが、お母様は一言「あんた、私の財産を狙っているやろ」と言い放ったとか。

以来、娘さんは相続の話を一切しなくなったそうで、こうなってしまってはいけません。また人間は80~90歳代になると体力も気力も落ちてきて、家や家財のことを落ち着いて話すことが徐々に難しくなります。

そうなってしまう前、まだ心身ともに健康な70歳代くらいまでに「子ども」に話しかけ、めどを付けてほしいと願っています。それが「子ども」のためになるはずです。

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